日本おもちゃ大賞エデュケーショナル・トイ部門大賞を受賞した教育玩具が提供する子どもが自発的にやりたくなるSTEAM学習
2021.05.17



株式会社学研ステイフル トイ企画制作課 課長 阿部瑞希さん、MD課 宮沢香さん





概要

学研といえば科学と学習の世代なので、プログラミング教材とのつながりはピンと来なかったのですが、「カードでピピッと はじめてのプログラミングカー」のパッケージを開封していただいて、感覚が戻ってきました。手のひらサイズのロボットカーに大きなマップ。そしてカラフルでかわいらしいカードやタグがぎっしり詰まっていて、「なにができるのだろう?」と想像力をかきたて、小学生時代に大慌てで教材を開けていた感覚が蘇りました。デモを見せていただき、子どものようにワクワクしながらお話をお聞きしました。

 

学研の教材には科学や物理のイメージがありますが、「カードでピピッと はじめてのプログラミングカー」のような教材が生まれたキッカケはありますか?


阿部さん: 私には8歳の娘がいるのですが、産後、親として何をしてあげられるかと考えた時に、子どもの可能性を広げてあげることが重要だと思っていました。これから教育改革が進行していく状況を考えると、自分が経験していない教育はどんなものか、ぼんやり不安に思っていました。 その中で子育てから復帰して、「プログラミングの商品を作りたい」と思って、世の中にあるプログラミング教材を調べていたのですが、協力会社からはじめてのプログラミングカーのプロトタイプをご紹介いただいたときに「あ、これやりたい」と始めたのがこの商品です。



この商品を作る際に、特に意識したことはありますか?


阿部さん: 人間が機械に命令してはじめて機械が動く。だから「私たちの意思を機械が読み取って動いている」とわかるように、クリアボディにしました。あと、パソコンやタブレットを使わない点は絶対譲れないところでしたね。海外にはプログラミングの教育玩具がたくさんありましたが、3万円以上の高価商品ばかりでした。お金持ちだけが可能性を広げられるわけではないと思っていたので、みなさんが手に取りやすい価格設定(6,578円)にもこだわっています。

さっそくデモを拝見させていただいてよろしいですか?


阿部さん: マットの上で、出発地点と目的地を自分で決めて、どんなルートを通るかストーリーも自分で決めます。そのルートを通るためにどんな命令をしたら車が意図した通りに走るのかを考えて、ボード上に順番にカードを置き、「めいれい」を書いていきます。たとえば学校から、おうちを通ってパン屋さんに行くには10種類のカードを使ってどんな「めいれい」をしたらいいかを考えよう、という導入になります。



カードを置き終えた後は「今並べた通りにタグを読み込ませてみよう。タグは順番通りにかざしていくだけ。そして、実行ボタンを押して、実行する」という流れですね。ゴールのタグもあり、達成感のある音声も入っています。取扱説明書には「こういうものを使って行ってみよう」というお題は出していますが、ストーリーは自分でも作れるようになっているので、何通りでも遊んでいただけます。





この教材を作るにあたって苦労したことはありますか?


阿部さん: 苦労した点は走行性ですね。付属の紙のシートの上でちゃんとまっすぐ走るよう、走行性の調整がたいへんでした。あと「はんぶんボタン」を使って左にすると、グリッド上に斜めに進んで、ショートカットしていくなどの機能面にも気を配りました。


学校で使われるなど、応用性がある印象を受けましたが、意図していない面白い使われ方をしている事例はありますか?


宮沢さん: プログラミングの教材ですので、理科寄りの勉強向けかなと思っていましたが、実際には国語や社会の授業でも使われていました。しかも学年も幅広くて、低学年だけではなく中学年の授業でも使っていただいています。 イベントでは、プログラミング教室に通っているご兄弟、5~6年生の男の子たちはもう夢中になっていました。プログラムを書くこともできるお子さまたちだと思うのですけれど、具体物を使って兄弟で対戦していました。「終わるまで絶対帰らない」みたいに。小さいときから触れられたらいいなと思っていたけれど、大きくなっても遊んでいただけると思いました。



阿部さん: いろんな学校の研究授業に結構呼ばれて、貸し出しています。4~5人でチームになって、あなたはここにカードを並べる人、あなたは道を決める人、タグを読み込ませる人と役割を決めて学んでいる学校もありました。面白かったのが国語で、「次に」などの接続詞の使い方について、プログラミングカーを使って順序立てて言葉化していきましょうという授業もありました。あとは鮭が卵から孵化していく流れを取り入れているなど、先生方の使い方が予想外で感動しました。


とてもわかりやすい教材ですが、Q&Aなどの窓口機能は設けていますか?


宮沢さん: ホームページに動画を含めて載せているので、それを見に来てはいただいていますが、問い合わせのご連絡をいただいたことはないです。こちらで説明をしたところで、お子さまたちは結構自由に遊びます。プログラミング教材なので、計画を立てて思い通りに動かして、駄目だったら見直そうという流れが本来ですけれど。パソコンとかタブレットがいらないので安全で、お子さまが別のサイトを見る心配も保護者の方には特にないです。

子どもたちが自主的に遊び方を見つけて学んでいくのは、これからの教育で大事な要素ですね


阿部さん: これからは変化も大きい時代で、私たちも経験していない時代に子どもを送り出すのは親としては不安ですが、自分でご飯を食べていける人になってほしいという願いはあるので、自分で考え、思い付いたらやってみるという要素は重要だと思っています。 公立はこだて未来大学の美馬のゆり先生に監修していただいていますが、言葉化する力、やり抜く力、論理的に考える力を強化できるのが幼児期だと言われているので、保護者の方が関わりながら遊んでいただくことが重要ではないでしょうか。「できた、良かったね、すごいね!」という励ましが達成感や自己肯定感につながる大事な時期なので、保護者のかたがたにはそういう面にも関わってもらえたらと思っています。

話は変わりますが、これまで教育業界に携わられて、学びの速い子どもの特徴について、なにか感じることはありますか?


阿部さん: お子さまによって、全然違うと思っています。1つのことを探求できる子もいるし、集中力が全然なくて、あっちもこっちも全部手を付けて、結果的に満遍なくいろんなことを体験している子もいます。 お子さまが持っている個性に寄り添うのが一番いいと思っていて、成長速度というより、その子に合っていること。それと、タイミングが大事ですね。興味がないときに与えても遊ばないですし、興味があるときに親がどんな提示をしてあげられるかが重要ではないでしょうか。



興味の動線は子どもによって違うので、その子の個性に合わせて興味を引き出して、伸ばしてゆく教育が求められると感じました


阿部さん: 子どもがYouTubeも最初見始めたときには、困ったと思っていたのですけれど、逆にYouTubeを見ているからチャレンジすることが広がったところもあります。普通にテレビであれば、その枠の中だけで終了してしまうけれど、YouTubeはつながっていきますよね。私の娘はYouTubeでやっている工作をまねして、実際に自分でやり出しています。YouTubeを見ることでやりたいことを見つけるなど、一概に悪いとも言えないと思います。私が提案できなかったことをYouTuberさんが提案してくれて、お子さまが自分でやっている姿を見ると、新しい時代だなと思っています。

この製品を将来的にどう育てていくなどのビジョンをお聞きできますか?


阿部さん: はじめてのプログラミングカーは、2018年の日本おもちゃ大賞エデュケーショナル・トイ部門で大賞をとらせていただきました。やはり学研の商品であるということと、価格帯を評価いただいて、学校の先生方にかなり気に入っていただけました。 学研としては、プログラミングという新しい切り口をこれからも出していきたいと思っていて、次に出したのが去年55周年を迎えたGakkenニューブロックを自分で組み立てて、動かしてみようという商品です。こちらも色によって命令の異なるクルーをコクピットに乗せたらプログラミング完了で、すぐ動かせる商品です。今後もパソコンを使わずにオールインワンで遊べる括りを増やしていきたいと思っています。


テクテク編集部あとがき

取材の途中で子どもとネット動画が話題になりましたが、社会と学習のデジタル化の流れを必然ととらえ、子どもが自分のやりたいことを見つけられるチャンスと前向きに考える阿部さんの考え方が印象的でした。パソコンに頼らず、自分なりの遊び方学び方ができる「はじめてのプログラミングカー」には、阿部さん・学研が考える「これからの学びのありかた」が反映されています。子どもたちが創意工夫を通じて、自由に学びに進められる点が、小学校の先生方から高い支持を受けている理由ではないでしょうか。

 

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