経済産業省 教育産業室 浅野室長「自分も何らかの価値を生み出せる」という自信が湧く学習環境を創りたい
2021.07.01

 

経済産業省サービス政策課長(兼)教育産業室長 浅野 大介さん

 


 

 

概要

EdTech(エドテック)などの教育サービス業を所管する経済産業省では、学校行政を所管する文部科学省と協業して生徒に1人1台のパソコンを配布する「GIGAスクール構想」の推進や、「EdTech導入補助金」による学校でのEdTechの試験導入支援、さらに探究教材を集めた「STEAMライブラリー」という教材プラットフォームを無償公開するなどの教育施策をしています。 子どもたちを「未来社会の創り手」と捉えて、その学習環境づくりに取り組む経済産業省は日本の教育の未来をどのように考えているのでしょうか。経済産業省のサービス政策課長で教育産業室長を兼務する浅野大介さんにお話をお伺いしました。


※この記事は2021年4月時点に作成されたものです。

経済産業省が提唱されている「未来の教室」ビジョンとはどのようなものなのですか?


浅野さん: 2019年6月に出した「未来の教室」ビジョンでは、学校のICT環境の整備をとにかくやるんだと書きました。この文章を書いた段階で、勝手なことを言うと財務省に怒られちゃいますから「国費負担で」と明記するのは避けたんですけど 「1人1台のパソコン、高速大容量通信、クラウド接続」を整えて「パソコンを新しい文房具」にするために政府としてちゃんとロードマップを作るんだ、ということを、文部科学省とも内々に相談して言い切りました。大人のシゴトの世界ではパソコン1人1台って当たり前ですよね。 僕たちが仕事でいい結果を残すために必要な情報環境ってあるじゃないですか。ネットはすいすい繋がり、ちゃんと打ちやすいキーボードで文字とかを表現できて、パソコンにはビデオ会議やチャットも含めていろんな表現の手段を使えるわけですよね。基本的な知的作業を支える道具として大人も不可欠な道具として日常的に使っている道具を、子どものときからちゃんとやってもらおう、もうこれに尽きるかなと。




実証事業を100プロジェクト以上されているかと思いますが手ごたえはありますか?


浅野さん: 実証事業の現場では、本当に面白いことがたくさん起こっています。たとえば長野県の坂城高校という高校で、過去2年間やってきたプロジェクトがあります。何をやったかというと、「すらら」というデジタルドリルを英・国・数の授業に導入して個別最適化学習に思いきり振り切ったんです。ここは全国各地どこの地方にもある進路多様校、つまり「スタンダードな地方公立高校」で、生徒さんの中には、中学までに修めるべき学力で自信のないところもある生徒さんもいて、学力のバラツキは大きい、そういう環境です。 中学とか小学校で取りこぼしてきた部分もあって、そこでつまずいたまま高校に入った子を相手に、「さあ高校の数学を始めましょう」と授業をやっても無理があります。だけど、高校は高校の課程を消化させなきゃいけないから、先生はいきなり高校の単元を講義し始めるわけだけど、生徒はそれ以前のところでわからないことがあって、「全然わからないわ」みたいな状態になってしまう。これは本当に全国の多くの高校で起こっている事態ですよね。 だったら、自分の学力に合わせたところから学び直したらいいじゃないかというのがこの事業の発想です。

「生徒が学習に費やす1時間の価値をどこまで高められるか」というプロジェクトです。分からないけど、とりあえず大人しく座ってノートとってろ、の教育ではなくて、「この1時間で、わからないところを潰す」という時間の使い方に変えてほしいわけです。そのためにはデジタルドリルとか講義動画をどんどん使おうよと。1人1人わからないところを潰していくんだから、一人ひとりが学んでいる単元なんてバラバラで当然。高校数学を理解するために中学数学や小学算数の関連単元まで戻ったって問題なんてない。こんな風景で、授業が進んでいったんです。




浅野さん: 坂城高校では、高校を卒業して多くの子が就職するので、企業研究の一環としてChromebookを使って調べ物をして、実際にその企業に話を聞いて、それを大学生のアルバイトメンターとかについてもらって探究してみましょうということをしました。 これでガラッと変わるわけです。今までは「学校行事なんでとりあえず来ました」みたいな空気だったという企業見学会で、地元の企業さんからも「やる気がない」と評価されることもあったというイベントが、びっくりするような変貌を遂げたわけです。Chromebookという「興味をもって自分で調べる道具」を持っていると、自分で調べられる、自分で表現できる、議論ができるとなるんです。あとは「知りたい」と思ったら調べていけるという、そもそもの入口が出来るわけです。

もう1つが根本的な自信ですね。結局「勉強ができるか、できないか」というのは、自己効力感というか、根本的な自信にものすごく繋がってしまう気がするんです。「自分はなんとかできる」という漠然とした自信を支えるものなんで。だから「たかが勉強、されど勉強」というのは本当で、「中学のときに勉強につまづいたけど、高校はいったら何とかできた、自分も何とかなる」という経験をEdTechを使って何とか再構築していくことに挑戦してみました。 実証授業は今度3年目を迎えようとしているんですけど、長野県の中では坂城高校がどんどん変わっているという噂が、県内の他の学校にも影響を与えて、2校目、3校目と同じような試みを始める学校も広がっています。他にも、クラスジャパン小中学園さんと17の市町村と組んで、不登校の生徒さん達が自宅で勉強を頑張ったら成績評価や出席扱いにする実証事業をはじめました。せっかく頑張っても通信簿に「スラッシュ」や「棒線」が入っているのを見て傷ついてしまう現状を変えようとするものです。


こういった取り組みの成功要因は何だとお考えですか?


浅野さん: 「いい先生が居る」ということだと僕は思います。ICTだけじゃ変わらないです。だけどICTがあれば勝手に変われる子が一部にいることも事実ですが。では「いい先生」があまりいない学校はどうしようもないのか?、となるかもしれないですけど、周りを見回してみてピンとくる先生がいなかったとしても、その子たちが悲しむ必要はない。キミに意志があって、インターネットにつながっているなら、自力でその画面の向こう側にいる「キミが出会うべき先生」に出会い、指導を受けられる可能性がある。ICTはそういう救いでもあるわけです。

当然ICTがバチッと揃っていて、周りにいい先生が一定数いて、その人たちが中心となって学校全体が何となく雰囲気が変わっていって、というのがあるとICTの威力は最大化されるんです。それが理想なんですけど、そうとばかりは限らない。それでも生徒たちはデジタル技術を使って、要するに周りの大人が教えてくれない話、あとは周りの大人からは発せられない、そこからは聞けない話とか、アクセスできない話とかに自力で辿り着く、最後にはその手段も持っているという。そんな感じですよね。

お話のなかに出た、いい先生とはどんな先生だとお考えですか?


浅野さん: やはり生徒に限界を設けない、生徒にちゃんと期待をしてくれる、向き合ってくれて助けてくれるということですよね。一緒になって考えてくれる先生ということだと思うんです。一緒になって考えてくれて、あとは……答えがなくても、「先生もわかんないわ」と言ってくれるのも重要ですよね。「先生もわからないから考えようぜ」って。そう言ってくれる先生がいるかいないかって、相当違うと思うんです。「俺もここから先はわからないわ、一緒に考えるか」という先生が、私は一番「誠実な存在」だと思います。優れた会社の優れた上司ってのも、多くはそういう存在だと思いますので。




STEM教育やSTEAM教育にチカラを入れていると思いますが、どのようなことをしていますか?


浅野さん:  最近始めたプロジェクトだと、「STEAMライブラリー」というオンライン図書館の試作品を公開しました。まだ試作品の段階なのでいろいろ課題は多いんですけど、たとえば東大生産技術研究所とか、産業技術総合研究所とか、いろんな国立の研究機関とかと組んで、そこで進められている最先端の研究というものを、高校や中学の探究教材として教科にも関連づけて学べる教材にしていこう、つまり「ホンモノの研究の入口」に立ってもらおうよという試みです。 今度はこの動画集を実際に学校で先生たちに使ってもらって、「もうちょっとこういう動画が欲しい」とか「こういうスライドが追加されているともうちょっと使いやすい」とか、そういう注文をもらい始めてます。モニター先生たちに動画を使った実践授業の共有をしてもらったりとか、そういったことに繋がっていければと思っています。

スポーツのパフォーマンスを上げるために科学的に考えたり、日常的な生活の課題でちょっとした困りごとを解決しようとか、おいしい料理を作ろうとか、大きな地球規模の社会課題へのチャレンジとか、何でもいいんです。そういったものが実は各教科とこんなに結びつく感覚って、学校で全然イメージさせてくれないじゃないですか。生徒さん達にそういう感覚をもたせないままただ勉強させるような学校、もうやめた方がいいよね。そういうのがわかる、ワクワクする学校にしようよという、非常に強いメッセージのあるプロジェクトにしたいんです。 「理由はいらないから、教科書を勉強しなさい」、という学びはもうやめようと。教科書は使ったらいいけど、学びというのはそういうものじゃなくて、「価値を創り出す過程そのものが学びだ」と言い切りたいんです。そういうメッセージを表現してみたという感じです。

今後STEAM教育が普及すると社会はどうなると思いますか?


浅野さん: 段違いに面白くなると思います。自分で「世の中のこの課題を解いてみよう」とか、その当事者になる訓練ができている子たちが増えれば、世の中から困りごとがもっと消えやすくなるだろうし、面白いことももっと増えるんじゃないかということを信じてやっています。

こどもたちにどんな風に育って欲しいとか、こう学んでほしいというものはありますか?


浅野さん:  大人になって仕事をするようになったとき、「自分も、誰かに喜ばれる、何かの価値を生み出せる」という自信をもっていられるようになってほしいですね。そもそも、何らかの課題を解いて誰かを喜ばせる当事者になることの面白さを知ってもらえればと。その過程で、いい仕事を仕上げるためには多くの仲間の力が必要で、そのためには仲間を作るための有効なコミュニケーションが必要で、仲間を惹きつけなきゃいけないことも知ってほしいわけです。

この経産省の「未来の教室」プロジェクトも、その延長線上に生まれた文科省のGIGAスクール構想も、EdTechなどの新しい教育サービスを生み出している多くの人や学校の改革者たちが仲間になってくれているから何とか動いているんです。だから、良いコミュニケーションで自分のアイデアや発想を人に伝えて共感の輪が広がることからしか良いシゴトは生まれないんだとか、そもそも自分自身が当事者意識や自己効力感を持たないとシゴトを始める気になれないとか、そういう話を学校の学びを通じてわかってもらって、身につけてもらって、そのまま自然に社会に出ていけるようになって頂ければと思います。

もう1つ重要なのが、勉強で取り残されたことで根本的な自信を失っている子とかが、やはりこの国には相当な人数いるんだろうなというのはよくわかるんです。PISAテストが国際的に高いとかいうことで安心しちゃダメです。今までの学校教育で取りこぼされて、自信を削られ続けた子たちが、「取りこぼされた」という思い出をもったまま社会に出てこないで済むような学習環境作りを真剣にやらないといけないですよね。これは文科省や全国の教育委員会と一緒にやることです。

ほんとに「たかが勉強、されど勉強」というか、勉強の出来・不出来っていうのは、子どもの自信を失わせるには十分すぎるぐらいのパワーがあるわけです。正直、そんなことくらいで自信を失わせないために、ICTを道具としてフル活用すべきだと思います。


テクテク編集部あとがき

文部科学省と協業して、GIGAスクールやSTEAMライブラリーの実現を進めてきた経済産業省。「プログラミング技術」を教えるための取り組みとして誤解されるときもありますが、その本質は「主体的に自分で調べて、コミュニケーションし、自分で考えるクセを付ける教育」です。 お話をお伺いしていて浅野室長の教育にかける情熱が伝わってきて、私もパワーを頂きました。 良い先生とはどんな先生かとお伺いしたときの、「俺もここから先はわからないわ、と言って一緒に考えてくれる先生」というお答えは私の中でとても腑に落ちました。あぁ、これからの先生に求められているのは知識を教える人ではなく、これだなと思いました。 浅野室長はじめ経済産業省の目指す未来は、私たちテクテクが目指している未来であるということも分かりました。行政がこれだけやっているのだから任せておけば良いというのではなく、私たちテクテクも「社会で生き抜くチカラが身につく学びをすべての子供たちに提供する」というミッションを果たすべく全力で取り組んでまいります。

 

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