コロナ禍の山梨で実現した こどもたちの学びが社会に繋がり、社会に影響を与える想い。
2021.05.06

株式会社スクーミー 代表 塩島 諒輔さん



概要

単四電池1本で動く手のひらサイズの小型コンピューターがスクーミーボードです。思わず手に取りたくなるレトロモダンな外観だけれども、実は200以上のセンサーアタッチメントが準備されていて、USBで繋ぐだけで使うことができるカスタムが無限大。いろんなアイデアを誰でも簡単により早くカタチにしていくことができます。こどもでも取り扱いがカンタンで、しかもマルチファンクションな小型コンピューターが2019年に誕生し、地方の山梨県を起点として日本中に世界中に大きく展開しています。
 

 

最初から数百のアタッチメントを付けることを前提に開発されていたのですか?


塩島さん: 初めから200種類ぐらいはこどもたちのアイデアで使えるぐらいにならないと「アイデアを形にする」とは言えないです。よくある距離センサーや明るさセンサーだけでは、こどもたちのアイデアを実現するというのはとうてい不可能ですね。
私はこの電気工作分野のことを何も知らない状態でスタートしました。それがどれだけ難しいとか、どれだけハードルが高いのかとか、全然わからなかったので、こちらが実現させたい世界観をとにかくエンジニアに話し、一緒に開発していきました。


ハードウェアと拡張性も凄いですし社会への貢献意識もとても高いと思いました。単純にハードや教材を作るという発想では、このレベルまで辿り着かなかったと思うのですが。


塩島さん: 「こどもたちの学びが、社会と繋がる、社会に影響を与える、社会を変える」ということを前提条件としてスクーミーボードの企画をしてきたので、何ら問題ないところです。要は、ロボットを作るとか、車のようなものを動かす机上のプログラミングを学ぶという教材要素でなく、社会の困っている人を助けるためのテクノロジーという位置づけのスクーミーボードなので、課題解決にはもってこいという状況です。社会貢献が先で、それを実現させるためになんでもできる小型コンピューターみたいなものがあったら便利だね、という感じです。




こどもたちの社会貢献の学びで、うまくいったモデルは思い付きますか?


塩島さん: 結構重要なところが1つあります。スクーミーというのはSchool do it Myselfの造語です。つまり、学校の課題に対して誰かがなんとかしてくれると考えるのではなく、自分たちで「なんとかしよう」という何かのアクションを起こしたくなるくらい簡単なテクノロジーがコンセプトです。
学校の課題にはいろいろあると思うのですが、たとえば学校の先生が職員室から3階の教室まで重たい荷物を持っていくことがありますね。こどもたちがそれを見て、「ちょっと何かしてみようぜ」と協力して作って、休み時間の間に完了する。先生に使ってもらって、「すごいね」と言われる。それくらい短い時間で課題を解決できる、実用性があり、リアルなテクノロジーということがコンセプトにあります。

去年はこどもたちが学校に行けなくなるというとんでもないことが起きて、こどもたちなりの課題がどんどん出てきました。しかし同時にそういう課題に対してチャレンジした事例もたくさん生まれています。具体的には消毒液の自動スプレー機。みんなが触るから、押す部分がどんどん汚れていくことに対し、自動でできる仕組みを作って学校に提供する。学校に寄付して、いまは職員室で実際に使われています。スクーミーボードとは別に、こどもたち同士でコミュニケーションができるアプリを作った例もあります。




塩島さん: コロナというみんながわかりやすい課題に対して、僕だったらこうする、私だったらこうすると考えてみる、しかもそれが実現するというのが面白い。こういったことがやりたかったので、実現できて良かったと思っています。

スクーミーボードは県内の多くの教育機関で採用されていますね。古くからの慣習が残っている地域社会の中でここまで大きく広まったのはなぜでしょうか?


塩島さん: 山梨に限らず、いわゆる地方は、新しいものに対して「これは信用できるコンテンツなのか」と、ためらう習慣があり、新しいことに対してしっかり慎重になるということは、いいところだと思います。スクーミーボードの場合は、「事例の逆輸入」を意識し、山梨県内で活動することができています。つまり、山梨県に先行でいくことはいったん置いといて、県外で実績を作り、「実績があるから山梨県でもどうですか」と逆輸入する形に特化していたので、その部分はうまくいっている状況です。東京のビジネスコンテスト*でも賞を貰っているので、その繋がりでどんどん外へ外へ出して、県内に戻ってくる発想がありました。山梨県を軸に県外展開をしている状況です。

*Challenge Future Award ビジネスデザイン発見&発表会2019関東大会
経済産業省関東経済産業局長賞、東京都情報産業教会賞 受賞
日本ビジネスデザイン全国発見&発表会2019
全国大会優勝
ビジネス大賞
テレコムサービス協会会長賞
東京都情報産業教会賞



そこで、山梨に戻っていったのは何が理由ですか? 東京でコンテストの実績があるのだから、東京ベースで話を進めてもいいような気がしますが。


塩島さん: これもスクーミーの結構重要なポイントですが、課題解決を意識したときに地方のほうが解決すべき課題は多くあり、その課題と人の距離が近いということが挙げられます。課題に対して当事者意識を持っている子ども達が、都心と比べて圧倒的に多いです 。「近所のおばあちゃん元気かな?」など、高齢者さんとの繋がりだったり、地域との繋がりだったり、地域内での小学校・中学校・高校での関わり合いもあります。そういう課題や「こうしたい」を実現する方が、スクーミーには向いていると思っています。




塩島さん: みんなで教室に集まってその中でやるモデルもありますが、こどもたちが地域の課題に挑戦していくとか、人と繋がって解決していくところでは、やはり地方の方が動きやすいところがあります。東京は人が多くて、いつでも進出できる感覚があるので、だったら地方を埋めてから東京で、というのも1つの営業戦略と思います。

スクーミーボードの最大のメリットはどんなところでしょうか?


塩島さん: 繋げるものがいっぱいあることが最大のメリットです。他社さんでも本体にコードでいろいろと繋げられる製品がありますが、スクーミーボードでは、人が近づいたときにLEDが光る動きと、川の水の流れを読み取って音を出す動きと繋ぎ方が一緒で、ただカチッと繋げるだけです。シンプルにいろいろなことができ、まさに、一のことを聞いて百の行動に移すことができるのがポイントです、
 
1つのことであれば、それを覚えてやればいいのですが、どんどんアイデアとやりたいことが増えていくと、覚えなければいけないことがどんどん積み上がってゆく。これは従来の学習と一緒なんです。そこを打開するために「1つ勉強すれば全部できる」という意識を大事にしました。その面で他の教材と比べて、限りなく学習コストが低いと思います。今は半年に20個のペースで新しくパーツが増えていて、今度は9月のタイミングでまた10種類増えてという形で進めています。

出典:SchooMy
 

こどもたちの学びの中では、つまずいているところを見つけて、その場で方向性を教えるなどの人的対応が重要だと思うのですが、スクーミーではどうなっていますか?


塩島さん: 教育機関であれば、私が学校の先生に一度教えて、その先生がこどもたちに教えることになっています。それをサポートするような専用のアプリや、質問すれば自動で返ってくるBotなども準備できています。なるべく教える要素を少なくするというのは重要なポイントで、簡単な接続であれば、1回覚えてしまえば楽にできます。プログラミングの環境もブロックを繋ぐだけなので、説明資料を丁寧に用意しておけば、大抵はやってくれますね。

出典:SchooMy
 


塩島さん: ただ、こどもたちのアイデアを形にして課題解決をすることに関しては、未体験の先生にとっては、考えることが難しいかと思います。いわゆる起業なども同じなのですが、新しいものを作り出す発想ができないと、そもそもこどもたちに教えることができないことがあると思います。スクーミーが意識していることとして「まだ知らない次のもの」という意識があるのですが、新しいことをどんどん考えられる方が指導者にならないと大変かもしれません。

学校の先生はITを使いこなした経験が少なく、その面での抵抗はあるけれど、逆に日頃、こどもたちを教えているから、課題発見はスムーズだと思っていましたが、逆なのですね


塩島さん: たとえば「教室の中のごみ箱があふれている。じゃあどうする?」といったときに、いろいろなアプローチの仕方があります。では、解決できるプロダクトを作るときに、どうするか。課題を分析して、それぞれを紐解いて、ここを解決すればここが達成できると考えてゆくことは慣れていないと難しいと思います。
 
何をするか考えるときに「ごみ箱にモーターを付けて、ごみ箱が動くようにしよう」などと発想することはとても大事です。しかしこれでは、状況によってはよくないアイデアになる場合もあります。スクーミーボードの場合、アイデアとしては良くないと考えるのですが、それを自分たちで作ることを前提に置かないと、アイデアを出すこと自体が無駄になってしまう。実現できるレベルのプロダクトで考えたときに、実際に作って、使って、フィードバックを貰い、パワーアップしていく流れを作らないといけないと思っています。
 
わたしたちのワークショップでは、よく椅子が出しっぱなしという課題に取り組みますが、「座るところにセンサーを置いて、机にしまうとそこが隠れるから暗くなる。明るさセンサーを使って、出ているときに音が鳴る」と考えるこどもたちが結構います。けれど「座れないじゃん」という意見が前提で出てきて、「その仕組みは、本当に日常生活で使えるのか?」という結論になる。そのように課題を分析して最適な仕組みをデザインすることもしっかり考えなければいけないと思うんです。

 
そこまで考えてプロダクトを作らせるサービスはあまりないです。「できてよかった」とか「工作して楽しかった」とか、こどもたちの興味・関心を沸き立たせるものはいっぱいあります。ロボットを作って動かしてみて「わあ、よかったね」というのはあるのですけれど、それだけではちょっとこどもたちをなめすぎじゃないか、と思います。課題に対してこどもたちも考えれば、しっかり考えることもできます。考え、その解決策を作るのに熱中になってもらうことが大切です。そして、いかにこの私たちの教材がこどもたちを熱中させるか、というところがポイントだと思っています。


こどもたちを熱中させるための接し方は、何かありますか?


塩島さん: それはもう課題の設定ですね。最近SDGsという言葉が世の中に出てきて、こどもたち考えて、アイデアを出していく授業があります。けれど、SDGsは国の偉い人が設定した課題で、こどもたちが設定した課題ではない。なので、そもそもそこからスタートするのが間違っている。いかにこどもたち自身が課題を設定するかの方が大事だと思います。
 
ただ、全員それができるわけではないです。「困っていることなんかない」というこどもたちはやらなくていいというのが良くて、「ちょっとずつステップアップしてやらせてみよう」という発想は私には全然ないです。課題がちゃんと決まって、やりたいものが見つかったときにやる。それまではやらないか、勝手に自分で考えてみる。そういう放置が多いです。

出典:SchooMy

 

伸びる子に共通して見られる傾向はありますか?


塩島さん: まさしく課題の設定ですね。そこが早い子は、自分がやりたいと思ったことをできているので。あとはどんな欲求があるのか。「ほめられたい」欲求や、「自分ができないものを作りたい」という自己満足の欲求などです。やはり「褒められたい」という欲求は人間だれもが持っているものだと思いますが、ちょっとした仕組みを親が本気で褒め、それをこどもたちがどう受け取って、次にパワーアップさせるためにはどうしようかと考える、そういったサイクルができると理想です。オンラインスクールでもリアルのスクールでもいければいいですね。
けれど、それは「こどもがやりたいことだけやればいい」ということとは違います。「勉強がしたくないから学校に行かない」とか「ゲームしかしたくないから勉強しない」とか言おうとしているわけではなくて、先生の課題の設定によって、こどもが熱中することはできると思います。
 
今日は4月1日で桜がいろんなところで咲いているけれど、桜の開花状況を見ることができるアプリを、山梨県とスクールのこどもたちが作りました。



塩島さん: こどもたちは、開花状況を知るアプリなんて使わないわけです。いま実物を見ているわけですから。県の人や私たちが作ってほしいと思っている一方で、実際にこどもたちが熱中して作りましたが、こどもたちの中には「これを俺たちがやったらすごいだろう」と自分たちでやってやる!意識がだんだん芽生えてきた。「これを俺たちが作ったら、県のホームページに載るんですか」みたいに欲がモチベーションになることもあります。なので、課題の設定は本当に重要だと思います。


テクテク編集部あとがき

スクーミーの根底に流れているのは「つなぐ」考え方です。小さいコンピューターと200のアタッチメントをつなぐ、地域の困りごとと解決のアイデアをつなぐ。印象的だったのは、地方のほうが課題を見つけやすいという言葉。いまやスクーミーは、その仲間たちと自治体がつながって、地域事業を行うまで大きな存在となっています。小さくポップなスクーミーボードは、塩島さんの考え方と生きざまの象徴です。

 

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